岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)61号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(一)車両破損による損害
<証拠>によると
(1) 本件事故により修理不能の程度に大破した原告車は、事故の約一年前に前記藤原モータースが中古車を貨物兼乗用車に改造し代金一四万円で平野に売却したもので、事故当時の時価は七万円と見るのが相当であり、これからスクラップ価格一万円を控除した六万円が車両破損自体の損害であること
(2) 原告車は原告平野が建設業に使用する労務者の輸送、資材の運搬等に欠くことのできない特殊な自動車であるためその買い換え車も改装に約四〇日を要し、その間平野は藤原モータースから貨物自動車を借り受け使用し、賃料として一日二〇〇〇円合計八万円を支払つたほか、同モータースに事故現場からの原告車の牽引料三〇〇〇円を支払い、同額の損害を受けたこと
を認めることができ、これを左右する証拠はない。
(3) 被告らは右損害について、同四一年六月一八日対物保険金四万円のほか被告会社より四万円を支払うことにより一切解決する旨の示談契約が成立した旨抗弁し、原告平野はかりに被告ら主張の示談が成立したとしても解除され終了するのが考える。
<証拠>によると、右抗弁事実を認めうるかのようであるが、前記認定のように買い換え車の改装に約四〇日を要する事実にてらし、なお右抗弁を認めるに十分でなく、右<証拠>によると右示談は原告車の修理にかえ代金一三万円相当の自動車を藤原モータースより購入すること、代金の一部として被告会社は同和火災保険株式会社の対物保険金五万円(原告車のスクラップ代一万円を控除し四万円)を同モータースに直接支払い、残額八万円を被告会社と原告平野が折半して負担することを約したものであつて、買い換えるまでの間の休車による損害についてまで解決したものでないことが認められる。そして<証拠>によれば被告会社は負傷した原告岡崎ほか六名に対する賠償金として同四一年六月六日一五万円、同年七月一二日一〇万円を原告平野に託し、受傷者に分配して領収書を送付するよう依頼したのに、平野はその一部を自己の賠償にあて右領収書を送付せず、強制保険金の請求に困るから自衛上右領収書の送付あるまで藤原モータースの了解をえて示談契約にもとずく対物保険金五万円の支払を保留すると称してその履行をしなかつたこと、原告平野は右領収書と対物保険金の交付とは別問題であるとして被告会社に対し同四一年八月頃から同年一〇月頃までの間約一〇回にわたり約束どおり藤原モータースにこれを支払うよう繰り返えし催告したが、被告会社が依然として履行しなかつたため同年一一月二一日付書面により右示談契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示はその頃被告会社に到達したことが認められる。被告会社代表者尋問の結果中被告会社の交付した右二五万円が全部受傷者七名に対する休業補償であること、および藤原モータースの承諾をえて保険金の支払を留保した旨の部分は成立に争いのない乙第二号証、四号証の記載や証人山砥基靖の保険金に相当する四万円は被告会社より支払をえられないので原告平野より受領したとの証言にてらし直ちに信用できず、他に前記認定事実をくつがえし保険金交付の留保により遅滞の責を負わないとの被告会社の主張事実を認めうる証拠はない。
被告会社はさらに右解除は信義誠実の原則にてらし努力を生じないと主張し、<証拠>によれば、原告平野は交付を受けた二五万円の約三分の一を自己の賠償にあて残額を受傷者七名に交付していることが認められるから、少くとも受傷者に交付した分について領収書を取りまとめ被告会社の強制保険金請求手続に協力すべきであるのにこれをしなかつた点においてある程度の非難を受けることは免れない。しかし、前記乙第二、第四号証の記載、原告平野本人尋問の結果によると、前記二五万円は受傷者の休業補償のほか一部は平野の受けた損害の賠償にあてる趣旨がなくもなかつたことが認められるから平野が二五万円全部を受傷者に分配せず、そのため全額について受傷者の領収書をもらうことができなかつたとしてもいちがいにこれを非難することはできない。
また強制保険金の請求手続と対物保険金の交付とは一応別個のことがらであり、右示談が原告平野と被告会社間の賠償関係をすべて解決したわけでもないから、前記解除をもつて信義則に反し効力を生じないとすることはできない。
(4) <証拠>によると、被告社会は、原告平野に対し、同四一年六月一八日車両破損による損害の一部として四万円を支払つていることが認められ、反対の証拠はない。してみると前記車両破損にともなう損害は合計一〇万三〇〇〇円ということができる。(五十部一夫)